
第1章:鞘師里保、再始動──沈黙を破る“帰還”と再出発

鞘師里保さんが長い沈黙を経て、再び表舞台に姿を現したのは2019年のことでした。2015年末にモーニング娘。’15を卒業して以降、しばらくは公の場から距離を置いていた彼女。その間はニューヨークへの語学とダンス留学など、自己研鑽に努める静かな時間を過ごしていたと伝えられています。芸能活動に関しては積極的な露出はなく、多くのファンにとって“再会”はいつになるのか分からないもどかしい日々が続いていました。
そんな中で発表されたのが、ハロー!プロジェクトのコンサートへのゲスト出演でした。再始動の第一歩は、自身が育った場所への一時的な“帰還”。ファンからは歓喜の声が上がると同時に、彼女の表情や佇まいに以前とは異なる落ち着きや覚悟を感じ取った方も多かったのではないでしょうか。
その後、彼女は俳優業やダンサーとしての活動を開始し、少しずつ表現の場を広げていきます。歌手として復帰するまでには、さらに時間を要しましたが、それは彼女が自身の表現を模索し、アーティストとしての基盤をしっかりと築こうとしていた証にも思えます。焦らず、確かな足取りで歩むその姿は、再始動における“静かなる決意”を物語っていました。
第2章:舞台とフィジカルで挑んだ“無言のメッセージ”

ソロ歌手としての本格始動以前、鞘師里保さんが選んだのは「声を使わずに語る」表現方法でした。2019年から2020年にかけては、ダンス・パフォーマンスを中心としたイベントなどに出演し、フィジカルな表現を通して観客に訴えかけるスタイルを模索していきました。
これまで彼女が培ってきたのは、アイドルとして培った可憐さと、ダンサーとしての高い身体能力。それを武器に、言葉発せずとも心に届くパフォーマンスを目指したその姿勢は、ある種の“沈黙の抵抗”とも取れるものでした。元々ストイックなタイプとされていた鞘師さんですが、この時期は特に「自分の芸能人生をどう紡ぐのか」という自問自答が強く反映されていたように見受けられます。
彼女にとってこの経験は、ソロアーティストとして再出発する前段階において、非常に重要な「地固め」の時間だったに違いありません。
ステージ上で語られる“言葉にならない物語”は、かつてのアイドル・鞘師里保とはまた異なる次元の表現者としての片鱗を、静かに、しかし確実に私たちに示していたのです。
第3章:初のソロ名義リリース──自分の声で、自分の言葉で

2021年8月、鞘師里保さんは待望の1stミニアルバム『DAYBREAK』をリリースし、ついにソロアーティストとしての歩みを正式にスタートさせました。この作品は、長く彼女の復帰を待ち望んできたファンにとって、まさに“夜明け”を告げる一枚となりました。
『DAYBREAK』の収録曲には、繊細なエレクトロサウンドからリズム主体のアグレッシブなナンバーまでが揃い、ジャンルに縛られない柔軟な音楽性が表れています。その中でも特筆すべきは、楽曲全体に通底する「再出発」への強い意志と、聴き手に寄り添うような優しさでした。かつての鞘師里保は、圧倒的なパフォーマンスで観客を引っ張るタイプの表現者でしたが、本作では“共に歩む”というスタンスが強く感じられます。
本人のコメントでも「自分の声で何ができるか、ずっと探していた」と語っており、楽曲制作にあたっては彼女自身がコンセプト段階から積極的に関わったといわれています。ソロとして活動する意味、その立ち位置、その責任──それらを深く受け止めたうえでの表現は、まさにアーティストとしての自立を象徴していました。
“鞘師里保の歌”は、アイドルとしての記憶に寄り添いつつも、確実にその先を見据えています。聴く者に余韻と覚悟を残す彼女のソロデビューは、多くの音楽リスナーにとっても印象的な出来事となりました。
第4章:ライブという実践の場──“今の鞘師”を見せる挑戦

2021年以降、鞘師里保さんはライブハウスやホールを中心に精力的な公演活動を展開していきました。『RIHO SAYASHI 1st LIVE 2021 DAYBREAK』『RIHO SAYASHI Live 2022 Reflection』など、自身の名を冠した単独ライブを実施し、単なる再始動ではない、“進化した表現者”としての鞘師を提示しました。
アイドル時代に比べると、ダンスよりも「歌」に重心を置いた構成が印象的で、歌声の表情や言葉の選び方に大きな変化が見られました。また、自らの声質に合った楽曲アレンジやセットリストの流れも、彼女自身の強い想いがあったと伝えられています。
ライブ中のMCでは、心境の吐露や音楽への想いを穏やかな言葉で紡ぎながらも、時折見せる素顔のユーモアが観客との距離を近づけていきました。ステージ上での堂々たる立ち姿は、かつて「緊張しい」と自ら語っていた少女の面影を超え、まぎれもなく“今の鞘師里保”を体現するものでした。
ファンからは「歌詞の一言一言に説得力がある」「声で気持ちを伝える力が格段に上がった」といった声も多く聞かれ、鞘師さん自身も「ライブは実践の場」「自分の答え合わせのような場所」と語るなど、自己表現の研磨を重ねる姿勢が印象的でした。
第5章:2022年、EP『Reflection』──アーティストとしての確立

2022年には、自身2作目となるEP『Reflection』をリリース。前作と同名のライブタイトルを冠したこの作品は、彼女がこの2年で経験してきた葛藤や再発見、そして音楽的な成長が詰まった一枚となりました。
このEPでは、内省的なリリックと洗練されたアレンジが特徴的で、「鞘師里保=ダンス」というイメージをさらに超え、“音楽そのもの”と向き合うアーティスト像が打ち出されていました。特に「Melt」「Winding Road」といった収録曲は、楽曲としての完成度もさることながら、パフォーマンス時の情感のこもった歌唱が多くのリスナーの心を打ちました。
また、EPのタイトルにあえてライブと同じ「Reflection」を選んだことも、鞘師さんなりの強い意志の表れのように感じます。音楽活動の根底には常に「自分と向き合う」姿勢があり、それは作品にもパフォーマンスにも貫かれているのです。
活動は少しずつメディア出演やコラボレーションにも広がりを見せ、元ハロプロファン層にとどまらない音楽リスナー層からの支持も獲得していきました。
第6章:2025年、ついにメジャーデビュー──『Too much!』が示すもの

2025年7月23日、鞘師里保さんはメジャーデビュー初のEP『Too much!』をリリース。ついに長年の活動の集大成ともいえる一歩を踏み出しました。この日付は、ファンの間でも“鞘師の記念日”として広く共有され、多くの祝福がSNS上を賑わせました。
アルバム『Too much!』には、彼女がこれまでのソロ活動で積み重ねてきた音楽的探求が凝縮されており、アップテンポなダンスナンバーから、静謐なバラード、さらには少し遊び心を感じるポップスまで、幅広い楽曲が収録されました。
中でも印象的だったのは、「Super Red」。強い意志を込めた歌詞と重厚なサウンドが融合し、「これが鞘師の現在地です」と静かに、しかし確信をもって宣言するような楽曲でした。ミュージックビデオでは、ソロ活動初期には見られなかったほどの強い眼差しと、しなやかを感じるサウンドが今の鞘師里保を強く感じさせます。
メジャーのフィールドで戦うことに対して楽曲の随所からは“覚悟”と“挑戦”の精神がにじみ出ていました。
第7章:ファンとともに──未来へのまなざし

メジャーデビューを果たした今もなお、鞘師里保さんの姿勢は変わることなく、「自分の中の音楽」と向き合い続けています。彼女のキャリアは、決して一直線ではありませんでした。ハロー!プロジェクトという大きな枠組みの中で頭角を現し、突然の卒業と渡米、帰国後の沈黙の期間、そして再始動と、常に「自分は何者なのか」「何を表現したいのか」という問いに直面してきたのです。
ソロアーティストとしての活動は、華やかさと同時に孤独も伴いますが、彼女はその孤独を武器に変えてきました。ライブで交わすファンとのまなざしの共有、SNSでの丁寧な言葉のやりとり、そして作品を通じた“信頼”の積み重ね。それらすべてが、今の鞘師さんを支える大きな土台となっています。
メジャーデビューに対する不安や迷いではなく、未来への希望に満ちあふれている今作。インタビューで「私は何回デビューするんだろう?」と語った鞘師さん。これは、いつまでも進み続け、ある意味で”完成しない成長”を選び続け、何度でも生まれ変わる姿勢とも取れるのかもしれません。

また、ソロアーティストとしての鞘師里保さんのあり方は、後輩や同世代の女性表現者たちにも静かに影響を与えており、「自分のタイミングで、自分の道を切り拓く」という生き方のモデルとしての評価も高まっています。
2025年以降の活動はまだ明かされていませんが、「次はこう来るか」と思わせる変化と驚き、そして一貫した美意識を見せてくれるであろうという期待は尽きません。
今後も、彼女の進化に、目が離せない日々が続きそうです。
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