【全曲レビュー】鞘師里保、メジャーデビューEP「Too much!」の真価に迫る

鞘師里保 メジャーデビューEP『Too much!』全曲レビュー

――「ちょっとやりすぎなくらいが、ちょうどいい。」鞘師里保が今、音楽で伝えたいこと。

2025年7月23日、鞘師里保がついにメジャーデビューEP『Too much!』をavexよりリリースした。インディーズ期を経て、約4年ぶりに「メジャー」という舞台に立った今、彼女が表現したのは、ポップで多様性に満ちた6曲の音楽世界だ。

インタビューで彼女はこう語っている。

「これまで“控えめ”であることが美徳とされる中で、自分を出しすぎないようにしていた部分があった。でも今は、ちょっと“Too much”なくらいでいい。そう思えるようになったことが、この作品のテーマになりました。」

抑えず、飾らず、でも軽やかに――。
『Too much!』には、鞘師自身が人生と向き合い、音楽というかたちで感情を自由に広げていく姿が刻まれている。EPのタイトルそのものが、現在の鞘師里保のスタンスそのもの。「今の私が“Too much!”と言い切る」ことが、メジャーへの覚悟であり、挑戦でもある。

収録された全6曲は、それぞれに異なる表情を持ちながら、彼女の「これまで」と「これから」を繋いでいく。音楽的な遊び心、等身大の言葉、新しい表現。――どのトラックにも、鞘師の“素直な衝動”があふれている。

以下では、それぞれの楽曲が持つ世界観と魅力を、順にレビューしていく。

🎧 鞘師里保『Too much!』(2025.7.23 リリース)

1. Super Red(メジャーデビューシングル)

  • メイン曲であることの意味
    自身を常に取り巻いてきた「赤」という色への向き合い方と、“新たなスタート”を象徴する鮮烈なサウンドが特徴的。ダンスをするために生みだしたとも言える軽快さと重厚感を合わせもつような不思議な魅力を持つ楽曲に仕上がっている。
  • 歌詞とテーマ
    自分を肯定する強さと前向きなメッセージ。過去の経験を「鎧」とするか「鎖」とするのかは、今の自分次第であるという想いを感じるような本当の強さを思わせる。
  • ボーカル・パフォーマンス
    ダンスミュージックながら、「赤」という自分のテリトリーとも言える世界感の中からささやきかけるような歌声ともとれるような心地よい重厚感を感じる曲になっている。

2. アイセヨイマヲ

  • 和風・詩情ある曲調
    ヒップホップやR&Bがベースにありながら、和モダンなリズムと歌詞が印象的。歌詞のタイトルがシンプルであることも引き込む要因となっている。和風な雰囲気は本人の出で立ちともマッチしているように思われ、しなやかさと力強さの間を表現する曲としては最適解のように思える。
  • 歌唱表現の柔らかさ
    優しい声色ながら妖艶な歌いまわし。歌詞に込めた感情表現が独特で、言葉よって歌い方を微妙に変化させることでまるで複数名で歌っているかのような錯覚に陥る。
  • テーマの深さ
    人への思いや儚さ、時間の流れを感じさせる、人生を愛し自分を愛するというドラマ性を感じる楽曲。

3. 転生chu☆

  • ポップで軽快なリズム
    転生願望というユーモアを感じる明るいアレンジで、キャッチーさもありながら、所々にダンサブルなパートが盛り込まれていて飽きさせない。
  • 遊び心ある歌詞
    現実から逃れて妄想の中で「転生してしまいたい」と願うという楽曲。設定だけ聞けばキラキラとした楽曲を思い浮かべるところだが、現実と妄想の中でさまよう感覚は実体験している人も多いであろうことを考えると、最も現実的な楽曲とも言えるのかもしれない。
  • 振り付け・パフォーマンス性
    愉快な振り付けがライブで映える

4. ゆらり

  • テンポの緩急と揺らぎ感
    リラックスしたビートと“ゆらぎ”の演出で心地よさを演出。隣で歩きながら話しているような感覚になり、気づいたら一緒に歌い、また気づいたらお互いに笑っていた、そんな情景が浮かぶような楽曲。
  • 声のニュアンス
    ゆりかごのような程よいリズムに乗った、ふわりとした歌声とラフな響きに耳を傾けると、自然と瞑想空間に誘われるリラックスミュージックのようにも感じる音域と声質が心地よい。
  • 日常を切り取る感覚
    歌詞が日常のちょっとした時間を描くことで共感を呼び、聴く人を選ばずにゆったりとした時間を過ごしたい時にはベストな楽曲。

5. 27yo

  • リアルに年齢と自分を見つめる曲
    “27歳”という等身大の数字に対するリアルな思いを歌っていて、「過去」でも「未来」でもなく「純粋な今」を綴った曲として、まさに今歌うことに意味がある曲だと感じさせる。
  • 深みのあるバラード調
    無条件に受け入れてしまうような脆さや危うさがありながら、芯の強さを残すような深みがあるのは、鞘師里保という人間が歌うからこその絶妙なバランスを生み出すものなのだと思う。彼女のバックボーンを知る人が聴くのと、始めて出会う人が聴くのとでは大いに意味合いが違ってくるのではないかと思う。
  • メッセージ性
    大人として生きていく葛藤と覚悟。ファン層への共鳴。誰にでも当てはまりそうな普遍的な悩みや吐露したい想いを代わりに語ってくれているような温かさを感じる楽曲。

6. beyond

  • 未来志向のクロージング
    このEPを超えて、その先へと進む意志を込めたタイトル通り展望性のあるサウンド。まばゆい明るさというよりは、起き抜けの木漏れ日のような柔らかい光のように思わせる曲。
  • アルバム全体を締めくくる展開
    “Too much!”のテーマとの対比や肯定感の締め。壮大な雰囲気も感じさせる曲調でありながら、聴き終わった後には程よい爽やかさが残り、次を期待させる余韻を感じる。
  • 展望と期待
    ライブはもちろん、今後の自身の展開を見据えたような歌詞や歌い上げが、ファンがより彼女を深く知り追いかけたくなる要因を手渡されているような気がしてくる。

パフォーマンスを愛し、自分らしく生きることの素晴らしさ

アイドルとしての過去を棄てたわけでも、これまでのソロ活動を否定するわけでもない。
それでいて、パフォーマンスからは「あの鞘師里保」を感じることはほとんどないと言ってもいい。

それは、あの時から変わらないパフォーマンスに対しての誇りと憧れがあるからこそなのではないだろうか。ある意味では環境的に変われなかった部分が、今になってようやく必要なピースが出揃い、スタートし始めたということなのではないかと思う。約15年かけて集めたピースを一つの絵に形作っていくフェーズに到達した今、本来目指したかったことをやり遂げるため、新しい世界に羽ばたく姿を心から祝福したい。

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